2017年3月31日金曜日

●金曜日の川柳〔番野多賀子〕樋口由紀子



樋口由紀子






どの窓からも馬が覗いている日暮

番野多賀子 (ばんの・たかこ)

「どの窓」だから数頭の馬がそれぞれの窓から顔を出している。「日暮」だから馬は夕焼けを見ているのだろうか。それともただ窓の外を眺めているだけなのか。その景が作者の目に留まった。馬はどうしてと思うぐらい物悲しい目をしている。その目でじっと外を見ている。申し合わせたように、黙って見ている。そして、もうすぐ日が暮れて夜になる。

この馬たちには馬小屋に飼われていて、山々を駆け回わる自由はない。覗くといる行為は一体何を意味しているのか。無音の風景に作者は馬のものがなしさ、不安のようなもの、しいてはこの世の、人生のあやふやさを感じたのだろうか。作者の心象風景かもしれない。その静かな景は気高くてせつない。

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