2017年3月10日金曜日

●金曜日の川柳〔時実新子〕樋口由紀子



樋口由紀子






何だ何だと大きな月が昇りくる

時実新子 (ときざね・しんこ) 1929~2007

2007年3月10日に時実新子は亡くなった。今日でちょうど10年になる。「何だ何だ」の話し言葉にまず惹きつけられる。しかもそうやって出てきたのは「月」。予想もつかない登場の仕方だ。世事に興味をもって、どんな顔で月が出てきたのかと想像するだけでも楽しくなる。おおらかでスケールが大きく、リズム感もある。「月」の把握がなんとも斬新である。

新子の「月」は多くの人が思っている「月」とはかなり違う。文芸の世界で月は厳かで幽玄な存在。こんなふうにぐっとユーモラスにとらえた句はそうなかった。優美とはほど遠く、好奇心旺盛、月のくせに人間味があり、なにやらおかしい。また、月に対して「ほっといて、こっちのことはこっち」と開き直っているようにも読める。ここに川柳の持っている自由さがあるように思う。『月の子』(たいまつ社 1978年刊)所収。

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