樋口由紀子
輪を叩きつけて天使は出ていった
きゅういち(1959~)
こんな天使は見たことはない。いや、どんな天使も見たことはないのだが、私の想像する天使は輪を叩きつけることなんて決してしない。天使に勝手なイメージを作り上げていたことに気づかされる。言われてみれば、天使だって怒ることはある。いつもいつも平和で穏やかでいられるわけがない。天使なんてやってられないと輪を叩きつけて出ていくのだから、よほどのことで、激昂で、抵抗だろう。違和の感情を持ち、このような行動をとる天使の存在に親近感をもつ。
一般的な天使のイメージをとっぱらって、自ら感じ取った世界を切り取った。威勢のいい言い放ちはユーモアのエッセンスを撒き散らして、天使の行動を一方的に立ち現せた。天使を瞬時に自分のなかにあるものに置き換えているようにも思う。怒るのも、怒っているのを見るのも生きている実感の一つである。不条理の感覚を視覚化している。『ほぼむほん』(川柳カード叢書① 2014年刊)所収。
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