2018年6月22日金曜日

●金曜日の川柳〔柴田午朗 〕樋口由紀子



樋口由紀子






男か女くらいは分かる九十八歳

柴田午朗 (しばた・ごろう) 1906~2010

「わかる?」「できる?」などと老人に対して、わからないこと、できないことを前提として、尋ねてしまうことがある。九十八歳はどのようなのか。ひょっとしたら、自分だってその年齢まで生きているかもしれない。だから、つい聞いてしまう。それに対しての簡潔な回答のような川柳である。作者にとっても初めての経験で発見もあり戸惑いもある。確かにわからないことも徐々に増えてきているだろう。しかし、みんなが想像するほど、みんなのご期待に添えるほどの年寄りではないのだ。

大いなる皮肉をたっぷり含ませて、豊かなユーモアをもって言い切っている。老いの心情をちょっと斜めの角度から、今ここに存在し、この世を見ている「九十八歳」を表出している。〈鍼医者にほめてもらった九十三〉〈九十歳嘘がだんだんうまくなる〉〈お辞儀さえして居ればよい敬老日〉。「川柳大学」(88号 2003年刊)収録。

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