2019年8月26日月曜日

●月曜日の一句〔大石久美〕相子智恵



相子智恵







湖に色濃きところ水の秋  大石久美

句集『桐の花』(邑書林 2019.8)所載

湖の色が濃いところとは、深くなっているところだろうか。色の違いが分かることから、この湖がよく澄んでいて、ある程度の大きさや深さのある湖だということがイメージされてくる。

そこにさらに〈水の秋〉という季語が置かれている。取り合わせの句の場合、イメージの近い季語を取り合わせるのは避けるのが定石のように思われているが、掲句は湖に水をあえて重ねているのだ。

〈水の秋〉は「秋の水」の傍題として歳時記に出ているが、秋の水とはベクトルが違う。「秋の水」が澄んだ水そのものを讃えるのに対して、〈水の秋〉は「水が美しい秋という季節」を讃える季語だ。〈湖に色濃きところ〉で脳裏に浮かんだイメージが、「秋の水」であればその湖のみに留まってしまうが、〈水の秋〉であることで、秋という季節そのものへと広がっていく。美しい湖の実景が見えない秋へと繋がって、大きな一句になっているのである。

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