相子智恵
鳥声をかがやかせたる霜柱 井越芳子
句集『雪降る音』(ふらんす堂 2019.9)所載
寒い朝、霜柱を見つけた。土を押し上げている細い氷柱の輝きに見入っていると、どこからか鳥の声が聞こえてくる。冷たく澄んだ冬の朝の鳥の声は、作者の耳にいつもよりも鋭く聞こえているのだろう。眼中は霜柱の輝きにあふれ、いつしか聞こえてくる鳥の声も輝いてきたように感じる。この霜柱が鳥の声を輝かせているのだ。
〈かがやかせたる〉によって視覚と聴覚はつながり、〈鳥声〉と〈霜柱〉で空と大地もつながる。しかも、つながりは一方向ではない。読者は〈鳥声〉から読み始めるので、最初に空に意識が行き、〈霜柱〉で大地に着地するけれど、そこで〈かがやかせたる〉の目的語を反芻して、また空へと意識が向かう。読者の心の中で空と大地は往還し、目と耳も往還する。共感覚のように宇宙と自身の感覚がぐるぐるとめぐり始める。
内包された世界が大きく、美しい一句である。
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