2021年10月29日金曜日

●金曜日の川柳〔飯島章友〕樋口由紀子



樋口由紀子






対岸のささやきVSつぶやき

飯島章友 (いいじま・あきとも) 1971~

対岸は無責任になんでも言う。声が小さいほど聞き取りにくくよけいに気になる。しかも「VS」している。それとも対岸の風の音や川のせせらぎが人の発する、意思の伴った「ささやき」と「つぶやき」が聞こえたのだろうか。それは自分の中にあるモヤモヤしたよくわからないへんなものなのかもしれない。かすかにひと撫でされている。

「VS」の表記が目を引く。「ささやき」と「つぶやき」をいままで誰もこの手で語ってこなかった。差異はあるが兄弟分である。「対岸」で身をかわしているようによそおいながら、「VS」でスポットを当てて拡大している。読みは幾通りにも出せそうな気がする。決着はつかないであろうし、決着をつけるつもりもないだろう。『成長痛の月』(2021年刊 素粒社)所収。

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