樋口由紀子
動輪が轢いたんか瑪瑙の鰈
井上一筒 (いのうえ・いーとん) 1939~
視覚的な把握、直観的な認識で瞬間的に見た景を一句にしているように見せかけているが、たぶん、実際に見たものではないだろう。ほぼありえない日常のひとこまの、奇妙な着想である。
「轢いたんか」と問いかけているのか、確かめているのか。軽妙な言いまわしで間をつくる。「瑪瑙の鰈」はどこかにあるものだろうけれども、見たことはない。ましてや動輪が轢くなどいうことはまず考えつかない。容易にイメージできない架空の出来事を対象化して、「瑪瑙の鰈」の存在を思いもよらない形で色濃く打ち出している。
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