2022年11月23日水曜日

西鶴ざんまい #34 浅沼璞


西鶴ざんまい #34
 
浅沼璞
 

前回提示した「三工程」を更新しつつ、新たなフォーマットを考えてみました。

これまで「付け・転じ」を分けて解説してきましたが、以後は同時に考えてみたいと思います(若之氏のコメントは随意【若之氏】の項目で紹介していきます)。
 
 
 宮古の絵馬きのふ見残す   打越(裏六句目)
心持ち医者にも問はず髪剃りて 前句(裏七句目)
 高野へあげる銀は先づ待て  付句(裏八句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)

【付句】雑。「高野」は高野山の意で、釈教。「銀」は上方使いの銀貨のことで「かね」。

【句意】高野山へ寄進する銀は一先ず見合わせろ。

【付け・転じ】打越・前句では病人のおめかしだった「髪剃りて」を、信心のための剃髪と取り成した。

【自註】万事は是までと病中に覚悟して、日ごろ親しきかたへそれぞれの形見分け。程なう分別(ふんべつ)替りて皆我物(わがもの)になしける。是、世の常なり。いづれか欲といふ事、捨てがたし。ありがたき長老顔(ちやうらうがほ)にも爰(こゝ)ははなれず。いはんや、民百姓の心入れ、あさまし。

【自註意訳】人生もここまでと病中に覚り、日頃親しい人に遺産分割を。と思ったもののすぐに考えが替わって全て自分のものにしてしまう。これは世の中に、ありありのパターンである。どのみち欲というものは捨て難い。あり難い住職面をしていても欲心は離れない。まして一般人の本心はあさましい限りだ。

【三工程】
心持ち医者にも問はず髪剃りて(前句)

形見分けなど思うてをりぬ  〔見込〕
  ↓
寺への寄進さらに思へる   〔趣向〕
  ↓
高野へあげる銀は先づ待て  〔句作〕

前句の、医者にも問わず剃髪した人物が〈形見分け〉を考えているとみて〔見込〕、〈そんな人物が更に何を思いつくか〉と問いかけながら、〈寺への寄進〉と思い定め〔趣向〕、〈高野山への寄進を思いついた病人を諫める隠居老人のせりふ〉という題材・表現を選んだ〔句作〕。
 
 
「なんやすっきりし過ぎて物言いしにくいなぁ」

いやいや、それでも物申すのが鶴翁かと。

「ま、そやけどな……」
 

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