2023年1月9日月曜日

●月曜日の一句〔小田島渚〕相子智恵



相子智恵






やがて鳥の心臓が生む冬銀河  小田島 渚

句集『羽化の街』(2022.10 現代俳句協会)所収

鳥が生むのではなくて、〈心臓が生む〉というのが不思議で、惹かれる句だ。心臓が動き、鳥は力強く空を飛ぶ。空を果てしなく行けば冬銀河という澄んだ冷たい宇宙にたどり着く。心臓は血を送り出す、血なまぐさい肉体でありながら「こころ」というものも同時に想像させる。空を飛ぶ鳥の心臓の中の冬銀河、外側と内側が循環しながら広がってゆく。

今の時季の句では他に、

 微動だにせぬ寒卵割りて呑む

という句もあって、こちらは卵という生命の源でありながら〈微動だにせぬ〉には死の静寂があり、それを飲み込む、生きているわたくし、という構造が意識されてくる。生と死というもの、それが冬銀河のように拡散したかと思えば、卵の殻の中に凝縮されて閉じ込められたりもして、生と死、凝縮と拡散、そんなイメージが立ち上ってくる。

 倒木はゆつくりと朽ち浮寝鳥

こちらも好きな句。倒木が朽ちる長い時間と、浮寝鳥の眠りの時間。静かな二つの時間が流れている。チェックしていく句は、気づけば鳥に関係するものが多かった。これは読者である私の好みでもあるかもしれないが、それ以上に、空という遥かなものと肉体という限りあるもの、その両方を句に取り込もうとする作者の心にチューニングされたからかもしれない。

 型抜きに抜かれ白鳥つぎつぎと

この句などは、『銀河鉄道の夜』の鳥捕りを思い出したりした。

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