2024年10月16日水曜日

西鶴ざんまい 番外篇23 浅沼璞



西鶴ざんまい 番外篇23
 
浅沼璞
 
 
物議をかもした「大吉原展」(東京藝大美術館)のルポでもふれた英一蝶ですが、現在その回顧展(サントリー美術館)が開催中(9/18~11/10)です。
 
 
没後300年記念ということで、まさに西鶴とは同時代人。というだけでなく、西鶴が絵も描いた俳諧師なら、一蝶は俳諧も嗜んだ絵師。西鶴が上方遊郭の幇間なら、一蝶は江戸吉原の幇間。さらに共通の友人が宝井其角とくれば、交流があって然るべき二人ですが、残念ながら書簡等は見つかっておらず霧の中。本展でも二人の交流に関する資料は皆無でしたが、大判250頁ほどの図録を紐解きつつ、西鶴作品との関連を探ってみたいと思います(以下、展示の作品番号を付す)。
 
 
10.四条河原納涼図(しでうがはらなふりやうづ)
 
山鉾巡行で有名な祇園会(八坂神社の祭礼)の始まる陰暦6/7から18日まで、京の四条では川涼みが恒例になっていました。河原だけでなく鴨川の流れの上にまで涼み床が設けられ、月下、夕涼みする男女を一蝶も描いています。
 
いっぽう西鶴は西鶴らしく女性のファッションに焦点を絞り、こう描きました。
〈所せきなき涼み床にゆたかなる女まじり、いづれかいやなる風儀はひとりもなく、目に正月をさせて、……色々の模様好み、素人目(しろとめ)にはあだに見るらん〉
『男色大鑑』巻八ノ一
 
 
14.奈良木辻之図(ならきつじのづ)
 
今回あらたに確認されたという初期の遊里図――奈良にあった木辻遊郭に取材した作品で、一蝶は郭内に鹿を二匹描きこんでいます。
 
西鶴もまた鹿の発情期にふれた後、作中人物に木辻の所自慢をさせていました。
〈こゝこそ名にふれし木辻町、北は鳴川(なるかは)と申して、おそらくよね(遊女)の風俗、都にはぢぬ撥おと、竹格子の内に面影見ずにはかへらまじ〉
『好色一代男』巻二ノ四
 
19.乗合船図(のりあひぶねづ)
老若男女を乗せた一艘の船が、今まさに岸を離れようとしている図です。「雨宿り図」とならんで、一蝶作品では人気の画題であったようです。
 
さるほどに西鶴作品でもしばしば乗合船が描かれました。
〈夜の下り船、旅人、つねよりいそぐ心に乗り合ひて、「やれ出せ、出せ」と声々にわめけば、船頭も春しりがほにて、……やがて纜(ともづな)ときて、京橋をさげける〉
『世間胸算用』巻四ノ三
 
 
26.阿蘭陀丸二番船(おらんだまるにばんせん)
 
本展では俳書も多く展示され、一蝶の挿画のみならず、その俳諧作品も紹介されています。其角との縁から江戸蕉門の俳書が多いのですが、なかでこの26番は西鶴も入集している大坂談林の一書。二人の奇縁を感じさせます。
 
 
36.吉原風俗図巻(よしはらふうぞくづくわん)
 
冒頭にふれた「大吉原展」でも目をひいた肉筆画の代表作。作中、禿(かむろ)に宥められる遊客と泣き伏す遊女、という印象的な場面が描かれています。
そういえば西鶴の独吟連句にもこんな付合がありました。
 
 酒飲めばその片脇に袖の露
  契りも今宵たいこ女郎    『西鶴大矢数』第二十四

ところでこの36番、悪所でのトラブル(?)から三宅島へ流罪となった一蝶が、かつての遊興を思い出して描いた作品です。恩赦によって江戸にもどるまでの配流中(約12年間)の、これら作品群は「島一蝶」と呼ばれ、今展示の目玉にもなっています。

私事ながら三宅島は先父の故郷、一蝶との奇縁を感じつつ、会場をあとにした次第です。(前期/後期で展示替・場面替があるようです。)
 

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