相子智恵
虫籠を虫籠らしく土と枝 矢野玲奈
句集『薔薇園を出て』(2024.8 ティ・エム・ケイ出版部)所収
これは昔ながらの風情ある竹細工の虫籠ではなく、現代のプラスチックの透明な虫籠、いわゆる「飼育ケース」だろう。買ってきたばかりの状態は、いかにも無味乾燥だ。そこにふかふかの腐葉土と、どこかから拾ってきた枝を入れて、ようやく虫籠らしくなるのである。現代の都会の虫籠のリアルな姿が面白い。
この虫籠で飼うのは鈴虫だろうか。胡瓜などもエサとして入れているかもしれない。本句集には、
保育園へは鈴虫に会ひに行く
という句もあって、この句も何気ないけれど現代らしい一コマである。都会では自然に鈴虫の声を聴くことは、もはや、なかなかかなわないものだから、保育園で飼育ケースに入れて飼っているのだ。子どもにとって珍しい鈴虫は、友達同様に〈会ひに行く〉存在。送り迎えをする親にとっても、もはや鈴虫は〈会ひに行く〉だったりするのだ。
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