相子智恵
約束を交はすには息白すぎる 藤井あかり
句集『メゾティント』(2024.9 ふらんす堂)所収
冬が立った。すでに吐く息が白く見える地域もあることだろう。
掲句、息の白さを神聖なものとして受け止めている。約束は、もしかしたら守れないこともあるかもしれない。違えてしまう日がくるかもしれない。そんな約束を交わすには、この息は白すぎ、潔白すぎるというのだ。実際に目に見える息の白さから、その息を吐く人物の心の中の潔癖さにまで、「息白し」という季語を深めていく。
句集の後ろのほうにこんな句が出てくる。
息白く我より長く生きろと言ふ
〈約束を交はすには〉の句を読んできた読者としては、この〈我より長く生きろと言ふ〉の祈りの重さ、言葉でまっすぐに約束することの重さが「息白し」の季語でつながり、先の句と相まって、さらに強く印象づけられる。
本句集はこのように繰り返し出てくる季語、モチーフというのが、わりと多いほうだが、そのたびに前に出てきた句に心が立ち戻ったりする。流れで読める句集というよりは、ページが進むごとに暗さの深まりも、息白しのような眩しさも折り重なっていく。陰影が深まりながら、流れずに積み重なっていくような読後感であった。
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