西原天気
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
パン粉つけてしまえば誰か判らない 草地豊子
ヒト型のカツレツ。からっと揚がったところを想像すると、ブラック味が増すが、揚げるところまでは、この句は言っていない。顔に小麦粉をはたいて、溶き卵を塗りたくる。この時点では、かろうじて《誰か》判る。パン粉をつけると、たしかに、もう誰か判らないだろう。
カツレツではなくとも、化粧すると、あるいはマスクをすると、誰だか判らなくなるという事態は起こるし、昨今は、撮影すると勝手に(自動的に)誰だか判らないくらいに加工してくれる技術もある。などと、寓意的に捉えることもできなくはないが、それだと、この句の視覚的爆発力が減じる。
パン粉をまぶしても、それは《誰か》ではある。それを眼前にして、衝撃なり戸惑いなりを、ただ味わうのが、読者の態度だと思う。
掲句は『セレクション柳人 草地豊子集』(2024年1月/邑書林)より。
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