西原天気
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
なお父はテレビの裏のかわいそうです 榊陽子
「裏で」ではなく《裏の》。《父》はテレビの裏にいてかわいそう、なのではなく(それもじゅうぶん悲惨だが。だってテレビの裏は、すくなくとも我が家のテレビの裏は、ホコリだらけで、配線はこんがらがっているわ、いつの虫だかわからない虫が死んで乾いていたりで、居心地のいい場所ではないので)、この《父》は、《テレビの裏のかわいそう》そのものなの。です。
なんて、かわいそうな存在!
上五は「父さんは」とでもすれば、《なお》という切り込み方はしなくていいのだけれど、「父さん」ではいい意味でも悪い意味でも緩いし、《なお》という導入の変則具合は、「変」を愛する人たち(私も含む)に愛される導入。それに、この言い方のほうが、あらたまって告げるっぽい。つまり、「父さんは」が醸す口語的空気から遠のく。
下五は、どうだろう。「かわいそう」で終われば、ぴったり五七五。《かわいそうです》の5音からはみ出た《です》は、例えば、言い終えてから、「あ、この人とは、そんな間柄じゃなかった、あまり知らない人だ。目上だ」といったぐあいに、あわてて《です》を言い足して、ていねいにしたのかもしれません。それにまた、《なお》とあらたまって始まった以上、《です》と締めるのが自然だし、礼儀にかなっている。です。
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