樋口由紀子
冬に濃くなる牛乳が兄だった
おだかさなぎ
近所の牛舎に毎朝やかんを持って生乳をもらいにいくのが子どもの頃の私の役目だった。搾りたての生乳は濃厚で二度と味わえない特別のものだった。冬の牛乳はより濃厚なのだろう。季節指定である。フィクション性を伴って、兄の存在がモノとなって浮かびあがってくる。
私は二人姉妹の姉の方で兄はもともといない。だから、兄に対して夢見心地のところがあり、謎でもある。「兄」を喩えるのに「冬に濃くなる牛乳」ははじめて読んだ。憧憬しているのか、畏怖しているのか、それとも。愛すべきではあるが、少々ややこしそうである。実体としてははっきり摑めないが、「兄」はもういいかなと思ってしまった。『川柳ねじまき』第11号(2025年5月)収録。
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