相子智恵
疾走の猫に抜かるる大神輿 金子敦
句集『ポケットの底』(2025.5 ふらんす堂)所収
印象鮮やかな一句だ。神輿は担ぐ人に注目されて詠まれる句が多いが、この視点は新鮮である。
神輿は大勢で「わっしょい」「せいや」などの掛け声で、小刻みに足を動かしながら練り歩くので、あまり早く進むものではない。大神輿であればなおさらだろう。担ぎ手は御旅所の神酒で酔っぱらったりしながら、大勢で賑やかに進んでゆく。
その脇をすり抜けていく〈疾走の猫〉。猫同士の喧嘩か、何かから逃げているようだ。祭の熱狂にお構いなしに、一気にしなやかに疾走してゆく。
普段はゆっくり眠ることが多い猫の疾走と、神輿を担ぎ、掛け声のリズムにトランス状態になっていく祭りの人々。疾走する猫によって、不思議と「祭りらしさ」「熱狂」がさらに強調されてくるようだ。
また、猫と神輿の組み合わせによって、下町の風情が感じられてくるところもいい。
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