2025年6月6日金曜日

●金曜日の川柳〔川合大祐〕西原天気



西原天気

※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。



巨大化したフジアキコ隊員(TVシリーズ「ウルトラマン」第33話:1967年2月26日)を見た瞬間の、あのザワザワした心持ち。


それ自体はセクシーでもセクシャルでもないのに、それに類する感情に強烈に支配される、あの感じを、当時も今もうまく言語化できない。けれど、当該の経験を記憶する当時の十代(男性)は多いようだ。フジ隊員の巨大化は、神話、というと大袈裟だけれど、重要なエピソードになっている。

砂漠から巨大舞妓が立ちあがる  川合大祐

舞妓という女性性の強い職業にある人なのに、性的な要素があまりない。それは、砂漠という設定と舞妓のきらびやかな衣裳があまりにも不釣り合いで、突拍子もない(ポップでシュールな絵画のようでもある)からだ。あまりにも無縁な組み合わせのなかで、この「立ちあがり」は、あまりにも唐突なので、「性的」その他、ある種分化した感情を惹起させない。未分化の感覚に訴えかけ、恐怖でも魅惑でもなく、ただただ驚かせる。

舞妓が座位から優雅な挙措で身を起こすのを、おお! と見上げるばかりで、その前後にも背後にも、物語などはなく、脈絡も理由も顛末もない。それゆえ、これは、圧倒的な出来事なのだ。

なお、「巨大娘(Giantess)」は、古代、例えばギリシャ神話の女神ガイア以来、時代と場所を問わず連綿と続くモチーフだそうで、この舞妓も、その系譜に入る。

掲句は川合大祐句集『ザ・ブック・オブ・ザ・リバー』(2025年5月/書肆侃侃房)より。

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