2025年10月31日金曜日

●金曜日の川柳〔大山竹二〕樋口由紀子



樋口由紀子





かぶと虫死んだ軽さになっている

大山竹二(おおやま・たけじ)1908~1962

かぶと虫の死骸が道端に転がっていた。死んでから日が経っているのか、干乾びている。腰をかがめて、よく見ると、生きているときのぎらぎら感は抜けて、この世を務め終えた安堵感が漂っている。

生きていくのはしんどいことである。否応なく義務と重荷を背負わされ、肉体的や精神的な負担は半端ではない。「死んだ軽さ」にどきりとする。自分も死ねばかぶと虫のようになれるのだろうか。「やって楽になれたね。もうがんばらなくていいよ」とかぶと虫にささやいているようである。「生き物」から「物」へ、すべてから解放され、吹けば飛ぶように身軽になる。『大山竹二句集』(1964年刊 竹二句集刊行会)所収。

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