2021年1月11日月曜日

●月曜日の一句〔今瀬剛一〕相子智恵



相子智恵







初鏡この顔で押し通すかな   今瀬剛一

句集『甚六』(2020.12 本阿弥書店)所載

〈初鏡〉は「正月初めて鏡に向かって化粧をすること、またはその際の鏡をもいう」と歳時記にあって、掲載されている例句も女性を描いた句ばかりだが、掲句は作者の実感であろうから男性の初鏡なのだろう。顔を洗い、髭を剃ったのかもしれない。よく考えてみたら鏡は男女関係なく見るものなのだから、歳時記の認識も新たにしたいところだ。掲句は格好の例句になると思う。

それにしても〈この顔で押し通すかな〉の諧謔はめでたく、元気が出る。〈この顔で押し通す〉と言えるようになるまでには、結構な年月がかかっていることだろう。20、30代で「何者かになる」と思っていたりルッキズムの呪いにとらわれていたりする間は、なかなか自分の顔に納得できる境地にはなるまい。40、50代の人生経験でも〈押し通すかな〉までの境地に至ることは難しいかもしれない。だからこそ、ある種の諦念を清々しいほどのふてぶてしさに変えた明るい掲句が眩しくて、読むと元気になるのである。

2021年1月9日土曜日

●浅草

浅草


雪の日の浅草はお菓子のつもり  中村安伸〔*〕

花の雲鐘は上野か浅草か  芭蕉

浅草の不二を踏へてなく蛙  一茶

浅草の暮れかかりたるビールかな  石田郷子

浅草や夜長の町の古着店  永井荷風

浅草へ仏壇買ひに秋日傘  岡本眸

行年の浅草にあり川を見て  田川飛旅子


〔*〕中村安伸『虎の夜食』2017年2月/邑書林

2021年1月8日金曜日

●能面

能面

能面の木箱へ帰る時雨かな  生駒大祐〔*〕

能面の裏のまつくら寒波来る  井上弘美

鶴凍てて能面一つづつ違ふ  岸本尚毅

能面の裏荒寥と梅の花  小川軽舟


〔*〕生駒大祐『水界園丁』2019年7月/港の人

2021年1月4日月曜日

●月曜日の一句〔名取里美〕相子智恵



相子智恵







光ともこゑとも寒の泉かな   名取里美

句集『森の螢』(2020.11 角川書店)所載

一読、清らかでまばゆい句である。寒中の泉は湧水も少ないだろうが、刺すように冷たい水が、冬の澄んだ空気の中で清澄な光を放っている。水が多くない時季だけに、水の湧く音、すなわち〈こゑ〉も小さいことだろう。しかし、その音にじっと耳を澄ませてみれば、何とも言えない清らかさがあるのだ。

〈寒の泉〉は、視覚からの情報と聴覚からの情報が分かちがたいほどに、冬日の中で輝き響いている。多面的で硬質な輝きが、一句を宝石のように乱反射させているのだ。

〈光〉〈こゑ〉〈寒〉〈かな〉と、一句を通してK音が響き渡るしらべもまた、清らかで美しい。

2021年1月2日土曜日

【人名さん】黛ジュン

【人名さん】
黛ジュン

初湯中黛ジユンの歌謡曲  京極杞陽