2013年9月13日金曜日

●金曜日の川柳〔片柳哲郎〕樋口由紀子



樋口由紀子






ロイド眼鏡の驢馬が麦食う口開けて

片柳哲郎 (かたやなぎ・てつろう) 1925~2012

驢馬が麦を食べているのを見たのだろう。でもロイド眼鏡はかけてないだろうが、風貌がそのように見えたのかもしれない。驢馬だって、物を食うときは口を開ける。あたりまえだが、あらためて見ると不思議な光景のようであり、なおかつその動作がユーモラスに見えた。そして、その姿が自分と重なり、自分自身を凝視した。自分もこのように物を食べているのだろうか。そういえば、片柳は眼鏡をかけた面長の紳士であった。

「ロイド眼鏡」はセルロイドの円形太縁の眼鏡で、アメリカの映画俳優ハロルド・ロイドが用いたことで有名になった。ロイドは明朗で勇敢な青年気質を演じ、三大喜劇王の一人である。片柳は「現代川柳の美学」を希求した。「ロイド眼鏡」も「驢馬」も彼特有の美学であり、矜持であろう。

〈陽は西に三枚五枚わが肋骨〉〈人や老いたりムーランルージュくるくるくる〉〈ともしびや ひたすらつぶす 飯のつぶ〉 『黒塚』(作家集団「鷹」発行 1964年刊)所収。

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