2014年5月26日月曜日
●月曜日の一句〔鈴木牛後〕相子智恵
相子智恵
夏草の焦点として山羊の尻 鈴木牛後
句集『暖色』(2014.5 マルコボ・コム)より。
〈夏草の焦点として〉からは、逆に焦点が定まらないほどに広い、夏の草原が思われてくる。青々とした一面の夏草の焦点となるのは、ひとところの草を無心に食んでいる山羊の後姿である。山羊は一頭か、あるいは数頭が広い草原に点々と尻を見せて草を食んでいるのかもしれない。夏草の緑の中で山羊を白い焦点とするのは、たいそう爽やかな風景である。
ただ、ここでは山羊というだけでなく、山羊の「尻」に焦点を定めたことで句に厚みと強さが出ている。一幅の風景画のような美しさを抜けて、ぐっと土臭さが出てくるのだ。
作者は北海道で牛飼いの仕事をしている。この風景も牛や山羊たちと一緒にいる普段の生活から生まれた句なのだろう。ほかにも印象的な夏の労働の句があった。〈働いてゐて炎帝に跨がるる〉〈裸ひとつこの地に捨つるため稼ぐ〉どちらも土や太陽とともにある労働の強さがあった。
〈緑蔭の動いて牛の動かざる〉時間の経過とともに日差しの向きがずれ、緑蔭は静かに動いていくのに、その下の牛はずっと動かずにいる。このどっしりとした牛の句もいい。
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