2015年2月25日水曜日

●水曜日の一句〔林桂〕関悦史



関悦史








十一人ゐる中二階からの万緑  林 桂

※漢字に「じふいちにん」「ちゆうにかい」「ばんりよく」のルビ


大手拓次の詩句を詞書に用いた連作の中の一句で、「呼吸がミモザの花の香のやうにもつれて空にあがる。」という詞書がつく。

『11人いる!』は萩尾望都によるSF漫画の古典名作。本来いるはずのない11人目が混じった、学生ばかりの宇宙船を描いている。

「中二階」からはニコルソン・ベイカーの小説『中二階』も思い出される。これはこの句の初出と同じ1988年に出版されているが、白水社から邦訳が出たのは1994年なのでこちらはさしあたり関係ないだろう。

「十一人ゐる中二階」は、少ないとはいえない半端な人数と、曖昧な位置が、不安定な充実感を示しているばかりだが、萩尾望都の同名マンガを思い起こすと、「中二階」が宇宙船のような特殊な場の雰囲気も帯びてくる。「万緑」は萩尾望都作品と相俟って、「十一人」の若さを連想させる。

「呼吸がミモザの花の香のやうにもつれて空にあがる」という詞書は、静止した眺めを動的なものに変え、「十一人」に呼吸する肉体を与える。「十一人」相互の感情のゆらめきが捉えられることとなるのである。そしてそれはもつれあって蟠ることもなく、空へ上がってかぐわしく解消されていく。

生身の人とも思えない、若々しさ、瑞々しさの精髄のような「十一人」の存在感や幸福感が、詞書と一句の中の単語同士の関係からのみ形作られている句である。座敷わらしのような、奇妙な、あり得ない11人目とは、この句においては特定の誰かひとりではない。全員がそうなのだ。


句集『ことのはひらひら』(2015.1 ふらんす堂)所収。

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