2015年3月23日月曜日
●月曜日の一句〔唐澤春城〕相子智恵
相子智恵
任終へし仮設トイレや暮れかぬる 唐澤春城
句集『安曇野』(2015.1 角川学芸出版)より
〈仮設トイレ〉というものが主役になる俳句など、ほとんど見たことがない。屋外で行われたイベントに使われたものだろうか。あるいは工事現場か。〈任終へし〉だから、それらの行事や建設はつつがなく終わったのだろう。人々が帰り、喧騒が過ぎ去った春の夕暮れ、役目を終えた仮設トイレだけが暮れきらない春の日ざしに照らされ、ポツンと撤去を待っている。仮設トイレという、いかにも詩になりにくい素材に情緒が生まれている。
春の日暮れまでの〈暮れかぬる〉というゆったりとした時間が、〈任終へし〉と響きあって「安堵感」を醸し出す。この安堵感からは、たまたま通りすがりに仮設トイレを見かけた通行人としての視点ではなく、仮設トイレの「任」にかかわった人の視点と感慨を感じる。たとえばイベントの主催者が会場の後片付けの最後に、仮設トイレの撤去を行おうとしているような感じである。これが夏、秋、冬など、別の季節の夕暮れ時であったなら、このような安堵感と充実感は感じられないだろう。
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