2015年3月9日月曜日
●月曜日の一句〔渡辺誠一郎〕相子智恵
相子智恵
春光の天児こそは波に乗れ 渡辺誠一郎
句集『地祇』(2014.10 銀蛾舎)より
3月11日で東日本大震災から4年になる。作者は宮城県塩釜市の人で「小熊座」編集長。あとがきに「震災詠もなんとか作ったが、現実を前に筆が折れる思いだった」「震災も四年過ぎたところで、なんとか一集になった」とある。
〈天児〉は「あまがつ」と読み、幼児の災難を除くために、形代として身代わりに凶事を移し負わせるお守りの木偶人形のことだ。平安時代、神事の祓に用いられた。
天児こそは、どうか波に飲まれることなく、波に乗っていてほしい。輝く春の光を受けてほしいという願いは、子どもこそは生きてほしい、災難を除いてほしい。また亡くなった子どもの魂も、どうか救済されてほしいという悲痛な願いだろう。震災では多くの子どもたちが亡くなった。
天児という平安の神事の雅なもの、春の光のやわらかさ……耐えがたい現実を体験した人が、現実をそのまま書くというアプローチを取らずに、神に捧げる純粋な願いの詩を書いた。美しいからこそ哀しい、忘れられない一句である。
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