樋口由紀子
おっとそれは飲めない インクである
河野春三 (こうの・はるぞう) 1902~1984
いくらきれいな色をしていても、同じ水物であっても、インクは飲みものではない。インクと飲みものはあたりまえだが別物である。だから間違うわけはないと思いながらも一句のスパッとした言い切り方と独自のリズムにインクの鮮やかな色が目に飛び込んできて、飲んでしまいそうなインクが見えてきた。インクは飲んだらいけないよとうっかり注意しそうな心境になった。
しかし、作者は河野春三であることで立ち止まった。だったら、そうではないだろう。飲めないイコール受け入れられない、と読むべきだろう。その案件は飲めるものであるかもしれないが、私にとって飲めないインクのようなものであり、決して受け入れることができない。到底納得できないという、強い意志表示であろう。「私」(1950年刊)収録。
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