2019年12月12日木曜日

●木曜日の談林〔高政〕浅沼璞


浅沼璞








隠口のはつかなりけり薬喰   高政
『誹諧中庸姿(つねのすがた)』(延宝七年・1679)

またまた高政だが、例によって凝った句なので、まずは語釈から。



隠口(こもりく)は初瀬(泊瀬)にかかる枕詞。

その初瀬から「はつか(僅か)」へと続く。

薬喰(くすりぐひ)は寒中に滋養のため獣肉を食べることで、周知の季語だけれど、当時は俗語でもあった。

よって字面をたどると上五・中七は雅語的な掛詞、下五が俗語的な季の詞で、この落差が句意にも反映している。



長谷寺で知られる信仰の地・初瀬は山に囲まれている。

そんな山にこもっているような地形から隠口(隠国)と言うようになったようだが、それを「口臭を隠す」という意に転じているのが下五「薬喰」である。

下五から上五へ、談林的な「行きて帰る心」といってもいい。




仏教では禁じられている肉食。

その口臭を「はつか」に抑えたい、けどどうしても食べたい、というジレンマが「けり」に読みとれて、笑える。



ちなみにこの発句の脇は――
杉箸寒き二本の里   春澄
初瀬の二本(ふたもと)の杉による挨拶句である。うまい。

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