2021年2月10日水曜日

●西鶴ざんまい #2 浅沼璞

西鶴ざんまい #2

浅沼璞


日本道に山路つもれば千代の菊   西鶴

上五の読みについては「にほんじ」(乾裕幸)のほか「にほんみち」(前田金五郎・吉江久彌)、「にほんどう」(加藤定彦)など字余りの説もあるようです。


句意に関しては定本全集(中公版)に「日本の里程に山道を計算すれば」と中七までを解説してあります。「日本の里程」とは唐土(もろこし)の里程との比較で、六町一里の中国に対し、日本は三十六町一里。
 
つもれば(計算すれば)同じ里数でも六倍の距離になることが当時知られていたようです。

で「六倍の距離」の連想から、千代に栄えるシンボルとしての菊が下五で取り合わされているわけです。空間的な長さから時間的長さに転じた付合技法といっていいでしょう。
 
絵巻の自註には、菊酒を呑んで七百年生きのびたという「唐土の菊童子」や、やはり中国から伝わった「重陽」のことが記されており、西鶴が下五に託した思いがうかがえます。


とはいえ、句意がとりづらいのは否めませんね。そこで、七七を足し、短歌形式で詠みかえてみました。歌としての可否はともかく、あるていどの意味内容は表現できないものかと。

日本式に唐土の道計りなば千代に八千代にほめく菊酒      璞

結句を「ほめく菊酒」としたについては、ちょっと説明が必要かもしれません。

じつは作句年未詳ながら、次のような発句があるのです。
菊ざけに薄綿入のほめきかな      西鶴
『発句題林集』(寛政六・1794年)
重陽の節句(陰暦九月九日)には、菊花を浮かべた菊酒を酌むだけでなく、その日から綿入の小袖を着る風習もあったようで、そんなダブル効果で体がほめき(火照り)をおぼえるというのも道理。「ほめくわい、ほめくわい」という西鶴の声が聞こえてきそうです。


冒頭発句の脇に関しては、またまた先送りします。

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