樋口由紀子
全国の皆様ひとり歯を磨き
小島祝平 (こじま・しゅくへい)
「全国の皆様」とまるで呼びかけのようなかたちで一句が始まる。何かと思えば「歯を磨き」である。拍子抜けしてしまう。これが狙いなのだろう。舞台は自宅の洗面所。歯磨きはもともと一人でするものであるから、「ひとり」とわざわざ書いているのは独居なのかもしれない。なにをしても、なにを食べても、あるいは倒れていてもひとり、誰も居ない。だからあえて、今朝も元気にいつも通りに歯を磨いていますよと、呼びかけてアプローチしているのだろう。
「皆様」と「ひとり」の対比が際立ち、「全国の皆様」と「ひとり」の私の関係性や隔たりを感じ取ることができる。道化的な趣きが色濃くあり、侘しさと可笑しさで、歯磨き粉の匂いが鼻につんときて、しんみりする。
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