相子智恵
鮭打ちの往生棒を振り上ぐる 若井新一
鮭打ちの往生棒を振り上ぐる 若井新一
句集『風雪』(2021.5 角川文化振興財団)所載
産卵のために川をさかのぼってきた鮭を浅瀬で待ち、棒で叩いて仕留める鮭打ち漁。今まさに棒を振り上げて、鮭を打ち殺そうとする瞬間が描かれている。
鮭を打つ棒は〈往生棒〉というのだ。実に直截的な命名だな、と思う。せめて往生してほしいという思いには、哀れと残酷と滑稽味が入り混じる。素朴な漁と道具の名前は、飽食の時代の私たちに、命を食べねば生きられないという大原則を改めて突きつける。
大口を四角にひらき鮭のぼる
本書には魅力的な鮭の句が他にもある。鮭の口はまさに四角形という感じがして、〈大口〉に必死な様子が伝わる。この必死な鮭を往生棒で叩き殺して、いただくのである。
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