浅沼璞
秘伝のけぶり篭むる妙薬 六句目(打越)肝心の軍の指南に利をせめて 七句目(前句)
子どもに懲らす窓の雪の夜 八句目(付句)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
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いつもどおり「三句目のはなれ」の吟味にかかります。
まず前句が付いたことにより、「妙薬」は「火薬」へと取り成され、武士の眼差しが確定しました。で付句では「指南」の対象を我が子に限定し、そうすることによって武士の眼差しに親の目線を重ねました。つまり武士の眼差しは残しながら、親の視点を付加したわけです。このような重層的なシフトチェンジもあり、というわけです。
しかも表層テキストにおいて打ち越すという轍を踏むことも、今回は免れているようです。安堵、安堵。
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さてこれで百韻の序段がようやく終わりましたが、前回に引きつづき確認しておきたいことがあります。
前回、故事付けに関しては大目に見ましたが、神祇・釈教・恋・無常・固有名詞を代表とする表のタブーには、ほかに病体や闘争などもあります。
なので六句目の「妙薬」や七句目の「軍の指南」などは障らないのか、気になるところです。
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黒焼きの妙薬や狼煙の兵法などは、「医薬」や「軽軍事」の範疇に十分おさまるでしょう。納得、納得。
「談林くずれや思うてナメたらあかん。わてかて宗匠や。俳書も仰山書いとるでぇ。そら老いのせいで、表層ナンチャラの障りくらい偶々あったかもしれへんけどな」
はい表層ナンチャラ、裏に続出しそうでビビッてます。
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【注】表の禁忌に関しては、一般的に「表ニ嫌フ」と言いますが、蕉門系俳書では「表ニ惜シム」と記されています。これは表に出すのを嫌うのではなく、表では出し惜しみ、裏で「派手を尽くさん」の趣旨があるようです(井本農一・今泉準一『連句読本』参照)。
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