西原天気
※樋口由紀子さんオヤスミにつき代打。
ドアのない家で生まれて死にました 佐藤みさ子
ドアはなくとも窓はあるのだろう、といった想像は、救いはあるが、いわゆる「甘い」。この家は完全に閉じている。
生まれた彼/彼女に、外部はなく、内(うち)があるのみ。
これほど怖ろしい一生があろうか。
「家」を外部からその人を守るもの、未来を内包する種子のような存在と捉えたのは、バシュラール『空間の詩学』であったか(うろ覚え。手元に当該資料ナシ)。だが、この種子には、芽を出す隙間もない。外部の脅威にも栄養にも無縁で、あらゆる世界から隔絶した家だ。
そこは母や父やきょうだいがいることを想像すると、ひとり孤独よりもはるかに怖ろしい。
くわえていえば、この句、「死にました」と、完結が明言されている点、時間的にも閉じていて、さらに怖ろしい。
掲句は『What's』第5号(2023年10月20日)より。
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