樋口由紀子
永遠に蝶追いかける 箸二本
中村冨二 (なかむら・とみじ) 1912~1980
「蝶追いかける」のは具体的な行動でよくわかる。しかし、「箸二本」で蝶を追いかけるのは異様であり、それも「永遠に」は尋常ではない。穏やかな口調で変なことを語っている。
「蝶」は不思議な昆虫である。童謡「蝶々」はそんな蝶を的確に言いとめている。手の届くところで、あっちへいったり、こっちにきたり、ふらふらしていて、まるでちょっかいを出すかのように挑発している。だから、追いかけたくなる。しかし、「箸二本」ではとうてい無理で、それならば「永遠に」続くはずである。「永遠に」「箸二本」で蝶を追いかける行為とは何を意味するのか。この世を異化しているのか、ただならぬ気配を感じる。『中村冨二・千句集』(ナカトミ書房 1981年刊)所収。
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