2024年6月12日水曜日

●西鶴ざんまい #61 浅沼璞


西鶴ざんまい #61
 
浅沼璞
 
 
神鳴や世の費なる落所   打越
 勧進能の日数ふり行   前句
厚鬢の角を互に抜あひし  付句(通算43句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
 
【付句】二ノ折、裏七句目。雑。 厚鬢(あつびん)=月代を狭く、鬢を厚くとった神職等の髪型。
角(すみ)=額際。   歌舞伎用語案内 (https://enmokudb.kabuki.ne.jp/phraseology/phraseology_category/kabuki-no-katsura/kamigata-no-kisochishiki/)

【句意】厚鬢の額際を互いに抜きあった。

【付け・転じ】打越・前句=水神鳴に雨天順延の勧進能を付けた。前句・付句=雨天順延中の役者の描写で転じた。

【自註】奈良座*は皆神役(じんやく)の者、何(いづ)かたへもやとはれて、*地うたひ・はやしかたを勤めける、其の風俗隠れもなし。極めて厚鬢の男どもなり。雨の日は、楽屋入もせず、隙(ひま)成るまゝに、太夫かたより馳走の宿々にして、毛貫(けぬき)を慰めとするもをかし。
*奈良座=春日明神の下級神職の奉仕する猿楽座。
*地うたひ・はやしかた=詞章を謡う人・伴奏する人。

【意訳】奈良座はみな神職の者で、どこへでも雇われて行き、地謡・囃し方の役をつとめる。彼らの風俗は世間に知られて隠れもない。とても厚鬢の男たちである。雨の日は、楽屋にも入らず、暇にまかせ、勧進元から給せられた宿屋宿屋で、毛抜きを慰みにするのも面白い。

【三工程】
(前句)勧進能の日数ふり行

楽屋入り致さぬ宿のつれづれに 〔見込〕
  ↓
  厚鬢の角の互に気になりて   〔趣向〕
    ↓
   厚鬢の角を互に抜あひし    〔句作〕

雨の日の役者に視点を合わせ〔見込〕、どのように過ごしているかと問いながら、身だしなみに思いを定め〔趣向〕、厚鬢の額の両角を互いに抜きあう様子を詠んだ〔句作〕。

 
厚鬢は上品だけど、地味で野暮な髪型って言われてますね。
 
「社人は烏帽子を被るから厚鬢なんや」
 
なるほど。けど、神職が芸能を副業としてるのは意外でした。
 
「神職いうてもな、春日の禰宜役者は下級の者らで仰山おったんやで」
 
その者たちが額際の毛を抜きあっている……という。
 
「なんや男色の匂いがするやろ」
 
恋の呼び出し、ですか。
 
「また引っかかりよった。ネタバレ禁止、言うてたやろ」
 
あ、そうでした。

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