2024年6月26日水曜日

●西鶴ざんまい #62 浅沼璞


西鶴ざんまい #62
 
浅沼璞
 
 
 勧進能の日数ふり行    打越
厚鬢の角を互に抜あひし
   前句
 浅草しのぶをとこ傾城
   付句(通算44句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
 
【付句】二ノ折、裏八句目。 恋(前の恋句から六句去り)。をとこ傾城(けいせい)=男娼。
厚鬢の角⇒(生ゆ*)⇒浅き草⇒浅草(地名)
*「額の角のはゆる浮草」(『西鶴大句数』1677年)

【句意】(浅い草のような鬢の毛を気にしながら)江戸浅草で人目をしのぶ男娼たち。

【付け・転じ】打越・前句=雨天順延中の役者を描写した付け。前句・付句=役者を男娼に取り成しての転じ。

【自註】わたり奉公せし浪人男、浅草の片陰に身を隠し、竹の小細工、売手本(うりてほん)書て其の日を暮せしが、有る時は男振(をとこぶり)を作りて、並木茶屋、業平の宮あたりに立ちうかれ、屋敷おりの女に心をうつさせ、女につられて又の日も約束して、女次第に身をなすゆゑに、是を男傾城とぞ指さしける。男めづらしき奥勤めの女房衆、*おつぼねがしらにことはりて、「けふは親の日」とて、物いはねど合点のよき*中間に小袋さげさせ、裏の御門より出らるゝ、道すがら懐紙やらるゝこそ才覚なれ。
*おつぼねがしら(御局頭)=奥勤めの女房衆を仕切る老女。 *中間(ちゆうげん)=武家の召使。

【意訳】これまで転々と年季奉公した浪人が、浅草のほとりに隠れ住み、小さな竹細工、習字の手本など書いてその日暮らしをしていたが、ある時は身だしなみを男前に整え、並木町の茶屋、業平天神のお宮あたりを浮かれ歩き、(藪入りなどで)屋敷奉公休みの女の気をひき、その女の言うままに再会を約束し、相手の心次第に身を任せるが故に、これを男傾城と指をさした。男性を見るのも珍しい武家屋敷の奥勤めの女性たち*は、御局頭に届けて、「今日は親の命日(で墓参りに)」と、無口で勘のよい召使に鞄持ちをさせ、裏御門から出かけなさる。道すがら(口封じに)心づけの包みを渡されるのも気の利くことだ。
*『好色一代女』(1686年)巻四に似たエピソードあり。

【三工程】
(前句)厚鬢の角を互に抜あひし

  浪人の身のよき男振    〔見込〕
    ↓
  をんな次第にをとこ傾城 〔趣向〕
    ↓
  浅草しのぶをとこ傾城   〔句作〕

鬢の毛を抜きあう役者を浪人に見立てかえ〔見込〕、どうして浪人が身だしなみを整えているのかと問いながら、男傾城を描こうと思いを定め〔趣向〕、鬢の毛(浅き草)を浅草に言い掛けた〔句作〕。

 
そういえば前句は「男色の匂いがする」って言ってませんでしたか。
 
「言うたような気もするけど、もともと男傾城いうもんはな、浪人だけに両刀遣いやからな」
 
それを自註では女性客に特定しているってことですか。
 
「そや、自註で特定してな、で次の恋句でな……」

嗚呼、またネタバレ、誘導してしまいました。

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