相子智恵
寒禽のとほき光点窓に頬 佐々木紺
句集『平面と立体』(2024.1 文學の森)所収
冬の鳥が1羽、空高く飛んでいる。その姿は発光する1つの小さな点のように見えている。抜けるような冬青空なのだろう。
下五で場面は突如、〈窓に頬〉と切り替わる。これで、作中主体は窓に頬をくっつけて、室内から空高く飛ぶ鳥を眺めているのだということが分かる。作中主体が室内にいると規定されたことで、何か空や自由への憧れのような気持ちまで立ち現れてくるようだ。
窓からも入ってくる冬の日差しの眩しさ。しかし頬をくっつけた窓ガラスはひやりと冷たく、それが、暖房で火照った頬に気持ちよく感じられてくることだろう。
過不足ない言葉で、句の中に描かれていない冬の空の様子や頬の温度、そこから伝わる気持ちの機微など、句の背景をたっぷりと想像させる。
花冷やフルーツサンドやすませて
ブラウスのボタン薄くて蓬摘む
をさなごの白目の青く冬に入る
押し花のさいごの呼吸しぐれゆく
掲句を始めとして、書かれた言葉の外側(書かれていない想像の部分)に、光や湿度や温度などをしっかりイメージさせる句が多く、繊細で透明感のある句集であった。
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