2025年3月14日金曜日

●金曜日の川柳〔小野五郎〕樋口由紀子



樋口由紀子





老人が持ち歩いている紙の束

小野五郎

「紙の束」はなにか。札束かもしれない。ただのゴミの、無駄な紙屑かもしれない。老人が懐に札束を入れて徘徊している姿、あるいは町中のゴミを集め回っている姿を想像した。誰もが等しく「老人」になる。「老人」の確かな存在感を伴って、鈍角に描写している。「持ち歩いている」に心の裡が見えて、哀しさと切なさが倍増する。

豊かな消費社会への警告だろう。消費社会であるがゆえの喪失感が際立つ。この姿は私たち自身である。この句の底には根源的寂しさがある。言葉の意味を立ち上げながら、リアリティのある景を想像させ、川柳に仕上げている。「おかじょうき」(2025年刊)収録。

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