面影や位牌に残る夜半の月 打越
廻国に見る芦の屋の里 前句
人恐ぢぬ世々の掟の鶴の声 付句(通算61句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
廻国に見る芦の屋の里 前句
人恐ぢぬ世々の掟の鶴の声 付句(通算61句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【句意】代々の掟によって(守られ)人を恐れない鶴の声(がする)。
【付け・転じ】前句の西明寺時頼の廻国伝説から「世々の掟」を、芦から「鶴」を付け寄せた転じ。
【自註】御代の掟の正しきを諸鳥までもわきまへて、里の道ゆく田夫(でんぶ)には中々おそるゝ気色なく、雀も鳴子(なるこ)をけちらし、烏は案山子の笠にとまりてつらがまへのにくし。ましてや大鳥(おほとり)の鶴などは、心まかせに舞ひあそびて、*ちとせをしれる声々ゆたか也。
*ちとせをしれる=千歳を知れる。諺「鶴は千年、亀は万年」。
【意訳】今の代の掟の正しさを、諸々の鳥どもまでよく分かっていて、田舎道をゆく農夫には容易に恐れる様子なく、雀も鳥威しを蹴散らし、烏は案山子の笠に止まってその面構えも憎たらしい。ましてそれらより大きい鶴などは心のままに舞い遊んで、千歳を生きる声々の絶えることもない。
【三工程】
(前句)廻国に見る芦の屋の里
代々の掟正しき世なりけり 〔見込〕
↓
代々の掟を諸鳥わきまへて 〔趣向〕
↓
人恐ぢぬ世々の掟の鶴の声 〔句作〕
前句の西明寺時頼の廻国伝説から「掟」を連想し〔見込〕、〈どのような掟か〉と問うて、生類憐みの令を抜けにし〔趣向〕、芦から「鶴」を付け寄せ、一句を仕立てた〔句作〕。
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やはり生類憐みの令の浸透がすごかったんですね。
「ま、もとから徳川さんの御世はな、庶民の勝手な殺生は禁ぜられとって、狩猟はできんかったのや」
雀・烏ときて、最終的に鶴を一句にしたのは「西鶴」って号もからんでますか。
「当時、生類憐みの令も度をましてな、じきに将軍家の鶴姫さまの名もご法度となってな、鶴の字使うのさえ禁じられたんや」
あぁ鶴字法度(かくじはっと)ですね。鶴翁も一時「西鵬」って改号してましたね。
「なんや、知っとるんかい」
はい。そのへんの経緯がこの付句や自註の背景にあるんですね。
「……」
もう徳川の世じゃないですから、認めても大丈夫ですよ。
「……」
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