樋口由紀子
死ぬ前に冷やし中華はどうですか
村山浩吉(むらやま・こうきち)
急な暑さで「冷やし中華始めました」の旗を飲食店で見かけるようになった。以前テレビで死ぬ前に食べたいものの一位は「卵かけご飯」だった。えっと思ったけれど、すぐにありそうだと納得した。それに比べて、冷やし中華の美味しい季節になったとはいえ、さすがに死ぬ前にというほどのものではない。そのギャップとありえないに価値を見出し、川柳にしている。
どう声をかけたらいいのかわからなかったのだろう。「冷やし中華」のとんでもないズレが咄嗟さと戸惑いの動揺を言い表している。しかも、その場の不安定さを暗転ではなく、明転しようとがんばっている。案外、「冷やし中華」が好物だったのかもしれない。(「川柳まつやま887号」(2024年刊)収録。
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