西鶴ざんまい #96
浅沼璞
山吹しぼむ岸の毒水 打越
神軍春の丸雪におどろかせ 前句
小車の錦八重の幕串 付句(通算78句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】
三ノ折・裏14句目。綴目。雑(其場の付)。
小車の錦(をぐるまのにしき)=牛車(ぎつしや)をデザインした大和錦。
幕串=幕を張るための支柱。
【句意】
(伊勢神宮の)小車錦の帳(とばり)、(それを張りめぐらすための)八重の幕串。
【付け・転じ】
神軍の勝利を伊勢の神によるものと取成し、その陣営の具体的な描写へと転じた。
※内外宮(うちとのみや)伊勢 ― 神風(類船集)。
【自註】
かけまくもかたじけなしや、小車の錦は伊勢太神宮の*御戸帳といへり。此ひかり、日本にかゝやき、是を其時の**陣幕にして付よせたり。
*御戸帳(みとちやう)=神仏の厨子などに垂らす帳。
**陣幕(じんまく)=陣屋に張り渡す幕。軍幕。
【意訳】
言葉に出して言うことさえも恐れ多いけれども、小車の錦は伊勢の皇大神宮の神前の帳に用いられているという。この御威徳の光は日本中にかがやき、これをその戦時の陣幕に思いなして付け寄せたのである。
【三工程】
(前句)神軍春の丸雪におどろかせ
伊勢太神宮ひかりかゝやき 〔見込〕
↓
伊勢の陣幕ひかりかゝやき 〔趣向〕
↓
小車の錦八重の幕串 〔句作〕
勝利は伊勢の神の御威光よるものと取成し〔見込〕、〈戦場はどんな風景か〉と問うて、陣幕も光りかがやくとし〔趣向〕、その錦や幕串をクローズアップした〔句作〕。
【テキスト考察】
『訳注西鶴全集2』ではこの付句に関し、〈八重は備への十分を現はすと共に、八重の潮路を兼ねて示したものか〉と問うだけでなく、〈こゝは神軍で、想像上のものであるから、海上の陣幕と見るべきであらうか〉とも問うている。となれば、船の描写は一切ないから「幕串」は海から突き出て八重に屹立したものと解せる。かなりSFチックな光景だ。
そういえば西鶴には高屋城跡を詠んだ「月しろのあとや見あぐる高屋ぐら」という発句もあった。月の出の空が白む頃、城跡の空を見上げると、かつての高櫓が……といったタイムスリップ詠である。
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