2013年10月30日水曜日

●水曜日の一句〔渡辺松男〕関悦史



関悦史








うろこ雲なくししものの億倍の  渡辺松男


ある程度の歳月を生きれば、失ったものも多くなる。
その喪失感を埋めるように「うろこ雲」が見いだされる。

ただしこの「うろこ雲」、必ずしも甘い慰藉に留まっているわけではない。

「億倍の」なのだ。

これは個人の生の卑小さを侮蔑しているわけでもなければ、逆に喪失を豊かな「うろこ雲」(=自然)という代替物が補填しているわけでもない。
喪失というもの自体を圧倒的な質量でさわやかに吹き飛ばしているのである。

説教や垂訓のにおいはない。アニミスムや寓意の回路を通りながらも、それらにまつわりがちな、無自覚な人間中心主義(ヒューマニズム)とは無縁の何かに触れているからである。「億倍の」「うろこ雲」に触れてしまった者が、喪失感にうずくまるただの人間などでいられるものではない。

作者、渡辺松男は迢空賞を受賞している歌人で、『隕石』は初の句集だがすでに堂々たる風格。
稚気と無邪気と妖気に富む。

これらの要素、俳句には必須に近い大事なものなのではないか。


句集『隕石』(2013.10 邑書林)所収。


2013年10月29日火曜日

【評判録】青木亮人『その眼、俳人につき 正岡子規、高浜虚子から平成まで』

【評判録】
青木亮人『その眼、俳人につき 正岡子規、高浜虚子から平成まで』


≫【俳句時評】ささやかな読む行為:外山一機
http://sengohaiku.blogspot.jp/2013/10/jihyo1025.html

≫俳句月評「近代」を問う:岸本尚毅
http://mainichi.jp/feature/news/20131021ddm014070006000c.html


≫web shop 邑書林
http://younohon.shop26.makeshop.jp/shopdetail/005000000074/


2013年10月28日月曜日

●月曜日の一句〔齋藤朝比古〕相子智恵

 
相子智恵







猫の背にほこと骨ある良夜かな  齋藤朝比古

句集『累日』(2013.9 角川書店)より。

〈ほこと骨ある〉にああ、そうだなあ、と思う。この〈ほこ〉に、丸まった猫の背中を撫でたときに感じる、毛と皮越しの背骨の手ざわりを思い出すのだ。見るからにふわふわの柔らかい毛に包まれた猫でも、その体は意外にシャープで、背中側はすぐ骨にあたる。あたたかく「ほこ」と。

背骨を感じているところから、猫を膝の上にのせて撫でている風景が浮かんでくる。猫は丸くなって撫でられながら、安心しきってグルグルと喉を鳴らして喜んでいるようだ。

猫の背を撫でながら、ゆっくりと名月を楽しむ夜。ぽかぽか温かい猫の体は、撫でていてこちらまでリラックスした温かい気持ちになるが、こんな日は特にうれしい。静かでやわらかな気持ちになる名月の夜である。



2013年10月27日日曜日

【俳誌拝読】『SASKIA』第9号

【俳誌拝読】
『SASKIA』第9号(2013年8月30日)


編集・発行:三枝桂子。A5判、本文24頁。

三枝桂子氏の個人誌。氏の俳句作品30句。

  父の父その父の父真桑瓜  三枝桂子

  氷室から糸ほどけゆくしびれ雲  同

  かけがえのなきかわほりの耳二つ  同

「特集:飯島晴子」に津のだとも子「飯島晴子『蕨手』の世界」(特別寄稿)および三枝桂子「俳句のかたち 『蕨手』と『八頭』」を掲載。

(西原天気・記)

2013年10月26日土曜日

【俳誌拝読】『儒艮 JUGON』第3号

【俳誌拝読】
『儒艮 JUGON』第3号(2013年11月1日)


A5判、本文64頁。編集・発行:久保純夫。

久保純夫氏の個人誌と解していいのだろう。氏の3作品(各76句、56句、76句)を収載。加えて招待作家11氏・12作品(各30句)。2段組に句作品をふんだんに配した作り。評論、エッセイ、句集評も。以下、気ままに何句か。

  なめくじら指の先より這い出しぬ  久保純夫

  水玉に毛が生えてくる箱眼鏡  同

この2句は「草間彌生を眺めながら」76句より。草間作品の幻想・蠱惑に俳句で寄り添う。

  泣きながら躯を通る紅葉かな  同

  朝顔の力満ちくる腋毛たち  城 貴代美

  朽野や鯨の骨が組みあがり  仲田陽子

  秋風は縞をなすなりフラミンゴ  岡田由季

  月今宵きりんの中に椅子組まる  木村 修

  刻々と光の変わる唐辛子  上森敦代

  涼しさに何の鳥かはよく見えぬ  杉浦圭佑

  姉さんは鮮やか躑躅吸うときも  原 知子

(西原天気・記)