2011年3月3日木曜日

●200号記念誌上句会・選句一覧(3)

200号記念誌上句会・選句一覧(3)

お待たせいたしました。選句一覧と作者です。句数が多いので、1日1題ずつ、5日間にわたって発表させていただきます。

誤記・漏れ等お気づきのときは、shino.murata@gmail.comまでお願いします。

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多数のご参加をいただき、ほんとうにありがとうございました。



【引】

いつせいに椅子の引かるる桜かな  池田瑠那
○埋図○苑を○山田露結○金子敦○沖らくだ○鈴木茂雄○中村 遥○栗山心○佐間央太○すずきみのる○正則○米男○太田うさぎ○めろ
■新入生たちは、着席をまず習う、カタカタと一斉に着席する。本当に可愛らしく、生意気なのは、一人だけである。外から見ていた桜も、それが少し気にはなったか、枝がゆれた。(埋図)
■入学式かな。満開が見える句。(苑を)
■入学式の風景でしょうか。ぴかぴかの一年生たちの姿が目に浮かびます。わが家の長男坊もこの春から新一年生です。(山田露結)
■「いつせいに」に、臨場感があります。(金子敦)
■卒業ならひとつの区切りとして、入学なら白紙のスタートラインとして、「いつせいに」がとてもいい。(沖らくだ)
■一読、規律正しく椅子の引かれる音がする。きびきびした人の動作が見えてくる。この「いつせいに」は椅子だけではなく「桜」にも掛かっていて、窓外には満開の桜が咲き競っている。何の不信感もなく歌えた蛍の光、古きよき時代の卒業式。わたしの脳裡に懐かしい風景を蘇えらせてくれた。(鈴木茂雄)
■入学式か式典の様子でしょうか、〈いっせいに〉がいいですね。(中村 遥)
■新学期の教室のような、初々しい感じがします。(栗山心)
■まさに(佐間央太)
■俳句の本道を行く1句という印象。(すずきみのる)
■この桜には、皆一目置いているのか(正則)
■起立!の号令が聞こえる(米男)
■卒業式や入学式。パイプ椅子の軋む音と、起立した人々の表情が見えてくるのはやはり窓外の桜の効果。(太田うさぎ)
■想像できそうで想像できない設定がシュールです(めろ)

ガラス戸引いて湯気に人体与へけり  山田耕司
○太田うさぎ
■湯気が生き物のような不気味さがなんとも良い。(太田うさぎ)

トンネルに牽引車入る春の雪  藤幹子

のどけしや索引何度読み返す  正則

みつみつと索引つづく庭朧  笠井亞子
○知人○牛後
■索引が続くのはどんな本? 文字にあふれる庭はぼんやりしています。(知人)
■朧なる庭に囲まれた部屋に、びっしりと小さな字で書き込まれた索引。その取り合わせが気持ちよく決まっています。(牛後)

闇を引く牡丹焚火の焔かな  学
○金子敦
■迫力のある焔に、圧倒されそうです。(金子敦)

引きこもりよろしくもぐる春炬燵  沖らくだ

引き回され二月礼者の一日かな  たゞよし
○学
■「引き回され」が二月礼者を表しており、うまい。(学)

引き金を引く指で引け寒の紅  鈴木茂雄
○栗山心○笠井亞子○痾窮○俊子
■カッコいい!峰不二子しか思い浮かびません。(栗山心)
■鈴木清順。(笠井亞子)
■電車の中で化粧している女性をよく見かけますが、周りの視線は気にならないのかな~。(痾窮)
■美人がうかびきて、いいなあ。(俊子)

引き際のわからぬままに踏絵かな  野口裕
○るかるか○風族○義知
■人生の縮図。「踏絵」を出したところが成果。(るかるか)
■こんなことよくありました。(風族)
■いつの間にかここまで来てしまったことに、納得しながらも釈然としない。踏絵という季語が活きている。(義知)

引き際を心得てをり咳ふたつ  楚良
○中塚健太
■「咳ひとつ」だとクリシェ。「咳ふたつ」が巧いんだ、と。(中塚健太)

引き算の宿題する子日の永し  杉原祐之
○苑を○中村 遥○楚良
■三鬼の句に対して「日永」を持ってきたところ、いいな。年齢を見えるし。(苑を)
■季語によりなかなかすらすらと引き算が出来ない様子が伝わり、ずっと見守ってやりたい思いが。(中村 遥)
■計算の苦手な子の宿題はとても長いです。(楚良)

引き時を知らぬ老兵亀の鳴く  痾窮
○正則
■昔気質の人も最近は少なくなった(正則)

引くときに音するドアや朧月  田中槐
○義知○千代○池田瑠那
■押すときには音はしないのかというとそうではない。引くときでも引きようで音はしないのである。朧なる。(義知)
■押しても引いても音がするのではなくて、引くときだけ鳴るというのが、ありそう。なんとなく物悲しい。でも生活感がある。(千代)
■ドアの軋みと朧月が良く合っています。(池田瑠那)

引く際のルルと波紋や鴨の池  めろ
○野口裕
■音が聞こえてくる。(野口裕)

引越のあとの畳と紙ふうせん  天気
○信治○金子敦○たゞよし○憲武○太田うさぎ○鴇田智哉
■ばたばたの中の、うすい感慨をクローズアップ。(信治)
■そこはかとないペーソスに、心惹かれます。(金子敦)
■当事者、作者がどのような状況なのかで解釈が変わってきそうだが、何もかもが無くなった後の部屋は変にがらんとしていて、そこに何かが忘れ去られているとなれば寂寥感が強調される。(たゞよし)
■この紙ふうせんからドラマが始まりそうですね。(憲武)
■幾分日に焼けた畳と膨らんだままの紙風船があたたかく又せつない。直接描かれていないけれど人の匂いがします。(太田うさぎ)
■しみじみと、いい。(鴇田智哉)

引金に三寒きたるひきにけり  るかるか
○沖らくだ○田中槐
■うわー、引いちゃったんですね。命にかかわる方じゃないと思うけど、でも人生にかかわるちょっと怖い感じがする。いい方に転びますように。(沖らくだ)
■切羽詰まった感じ。引金は非日常のものであるはずなのだけれど、そこここにあるような。(田中槐)

引出しに浅蜊酒蒸国境線  佐間央太

引責のボスの項につちふれり  牛後

引鶴の業より発ちて業に降る  千代

心臓と脳の引き合う二月かな  木野俊子
○真鍋修也○るかるか○池田瑠那○柳 七無
■二月は1年のうちで最も寒い時期である。狭心症、心不全、脳梗塞などが死因となる場合が特に多い月である。どちらが先に来るか。どちらが勝つか、負けるか。心臓と脳の綱引きである。(真鍋修也)
■共感。見立てがうまい。(るかるか)
■心臓(ハート)は「こころ」であり、「いのち」でもある。それが料峭の頃、寂しき頭脳と引き合う……、物語の始まりを感じました。(池田瑠那)
■読んだ瞬間に「うわっ」ときました。(七無)

栄螺より闇を引つぱり出してゐる  恵
○風族○杉原祐之○山﨑百花○廣島屋○瀬戸正洋○山田露結○沖らくだ○鈴木茂雄○たゞよし○笠井亞子○楚良○すずきみのる○天気○野口裕○憲武○米男○藤幹子○中塚健太○痾窮○鴇田智哉○山田耕司○俊子
■新発見でもないのでしょうが、私の好みなので。(風族)
■リアリティがありました。身を肝ごと引っ張り出す感じを「闇」と捉えたのが見事です。(杉原祐之)
■栄螺にとっては迷惑なことです。食べられちゃうのですから。人間だって、誰でも何がしかの闇を隠しているのに、です。(山﨑百花)
■嗚呼あれはまさに「闇」って感じですねえ……(廣島屋)
■栄螺の肝を引っ張り出す。肝だけではなく、その回りの僅かな闇もいっしょに引っ張り出す。生きるには背後にある闇でさえ手なづけることが肝心。(瀬戸正洋)
■栄螺の身がうまく取り出せないでいるのでしょう。身を取り出そうと悪戦苦闘しているその様子を「闇を引つぱり出してゐる」と表現したのが見事。(山田露結)
■あのうにゃ~とした物体はまさに!出てくるまではアヤシイ「闇」も、白日のもとに晒すとなんだかな~^^; でもってあとは食べちゃうんですね。(沖らくだ)
■この「栄螺」はサザエの壷焼きのことだろう。その殻から身を引っ張り出すというところを「闇」を引っ張り出すと言ったのだ。断るまでもないが、闇を引っ張り出したことが詩なのである。闇を引っ張り出したあとに残るのは暗くて深い淵だが、ここから男と女の物語が始まるのだ。始めるのはこの一句の読者である。深淵は至るところにあって、闇はどこからでも引っ張り出すことができる。 (鈴木茂雄)
■奥まった栄螺の身を完全に切れることなく引き出すのは案外難しい。「わた」の味も含めてそれを闇と言い切ったのが痛快。(たゞよし)
■「闇」といえば貝なら栄螺。あの黒いとぐろ。小さい頃は栄螺をおいしそうに食べる大人がすごく野蛮に見えたもんです。「引っぱり出す」ことに焦点を当てたのがいい。(笠井亞子)
■その闇を是非とも見てみたいものです。(楚良)
■個人的には特選句という1句です。内蔵と一緒に妙なものまで出て来たという感じ。(すずきみのる)
■ちっちゃい闇wというところが宜しいです(天気)
■闇は、ちょっとだけなら、旨い。(野口裕)
■感覚として通じるものがあります。つげ義春の夢日記を読んででもいるような。(憲武)
■栄螺の殻の内側は磨かれた鏡ようである。そこに潜む闇とは。。(米男)
■いいですね。闇の手応え。闇にいるうちは栄螺の本体も得体の知れないままで、それをさらさんとほじくり出す。(藤幹子)
■まさにそんな感じします。(中塚健太)
■バレ句だと思えばいいのか、単に写生句として。(痾窮)
■私は全部食う派ですが、闇という感覚分かります。(鴇田智哉)
■もう身はほじり出してしまった、その後。爪楊枝かなにかで、栄螺と格闘している、その不毛な情熱。(山田耕司)
■私は貝が苦手だから。闇をひっぱり出しても、また闇が。永久運動の一句。(俊子)

鉛筆の線引いてゐる枯野かな  憲武
○真鍋修也○義知○和人○すずきみのる○天気○篠
■地形が、一本の細い鉛筆の曲がりくねった線の様に見える。枯野の寂寥感を、見事に描写した句であると思う。(真鍋修也)
■枯野が鉛筆で表現できるとは感嘆。この鉛筆は細く削られた硬質の鉛筆。(義知)
■この線は彼岸・此岸の線でしょうか(和人)
■個人的には特選句という1句です。絵画で言うとデッサンのもたらす感触という風ですが、この感覚は黙って浸っていたいというところです。(すずきみのる)
■枯野は鉛筆の感じですよね。スケッチと解しても成立しますが、イメージや質感のまとまりが宜しいです(天気)
■「鉛筆」と「枯野」がお互いに何も説明せずに、ちょっと捻れておさまっている不思議。(篠)

鴨引くや病原菌を撒き散らし  中村 遥
○山崎百花
■時事句でしょう。鳥インフルエンザで、大変なことになっていますね。鴨のせいかも、って。(山﨑百花)

花祭たまご焼くとき油引く  山﨑百花
○信治○佐間央太○一雄○恵○俊子○篠
■音と色が祝福的。(信治)
■玉子焼きが普段着で、卵かけご飯が部屋着。たまごで大きくなりました(佐間央太)
■「たまご焼くとき油引く」が花祭のめでたさとあいます。(一雄)
■当たり前で瑣末な事だけど、「花祭」と合わせると何かとてつもない意味を持ったことのように思える不思議。でもやっぱり気のせい。ただそれだけの事と読みたい(恵)
■当たり前のことを一句にして、出すところがえらい。私は100円ショップのたまご焼き器でえらい目にあった。(俊子)
■色、音、匂いの三重奏。何ともいえない明るさ。(篠)

空にある遠くの凧を引つぱりぬ  鴇田智哉
○信治○一雄○天気○中塚健太○めろ
■実感があります。(信治)
■たしかに凧をあげるとはこのような事です。(一雄)
■地上での実感。そのままなのですが、そのまま言ってしまうほうがむしろコクが出るというケース(天気)
■揚げているという現実感覚の喪失。(中塚健太)
■なんとなく近くより遠くの凧をおそるおそる引っ張りたくなりますね(めろ)

啓蟄や引導渡す口上は  廣島屋
○山﨑百花
■季語が啓蟄ですので、親離れする子に何か言っているところと思いました。子離れするにあたっても、親とは仰々しいものです。(山﨑百花)

綱引きて日の丸揚ぐる紀元節  真鍋修也

黄梅やたくさんの犬に引かれ行く  信治

綱引の綱のとぐろや龍天に  一雄
○和人○天気
■綱のとぐろから龍は天に上るのですね(和人)
■じょうずな見立て。両端にあります、とぐろ。綱引きの力感と「龍天に」がよくマッチ(天気)

索引の一冊薄き二月かな  義知
○瀬戸正洋○和人
■索引が独立している場合は概ね薄い一冊である。二月には、節分、立春、初午、雨水、針供養等の節気や行事がある。索引も、日数が一番少ない二月も薄いということで繋がる。そして、その薄いということを作者は肯定している。(瀬戸正洋)
■なるほど、索引と2月の取り合わせを珍しい(和人)

索引の文字の細かき余寒かな  金子敦
○どんぐり○楚良
■そうそう索引は文字が小さい。(どんぐり)
■調べごとに字が小さく、眼鏡が欠かせません。(楚良)

春の蚊や引き戸がたつくラーメン屋  栗山 心
○恵○柳 七無
■今時そんな店舗がと思うが、あるのやもしれず。ラーメンを食べつつ蚊を払いつつ(恵)
■老舗のラーメン屋のいでたちが目に浮かぶようです。(七無)

春一番彼女ら数人は引火する  知人
○廣島屋○憲武○藤幹子
■上六中九という字余りがほとんど気にならない力強さだと思いました。他の季節の風では確かに引火はしそうにないですね。(廣島屋)
■引火するのは恋の花火か。春一番なのできっと3人でしょう。(憲武)
■春一番が妖怪じみていて良い。(藤幹子)

春昼のジヤリジヤリジヤリと引きこもる  苑を
○知人
■引きこもる前のアクションはどのようなものでしょう。砂か小石を引きずる音に孤独を感じます。(知人)

人格引き終えて拍手のお気軽  埋図

大根引く嶋引く神のごとく引く  風族
○沖らくだ○天気○池田瑠那
■大げさもこう言われるとちょっと荘厳な感じがする不思議。(沖らくだ)
■ひつこいw ひつこさで採らされてしまいました(天気)
■大仰な言い方に、上質のおかしみを感じました。(池田瑠那)

淡雪の引き際早し障子引く  どんぐり

鳥引くや臍の緒のまだ濡れてをる  山田露結
○風族○千代
■こういう句を読むとうれしくなっちゃいます。(風族)
■生々しさにやられた。実際の出産の場面だけでなく、大人になっても精神的にそういうことがありそうな気がした。(千代)

鶴引くや風と会話を交はしては  すずきみのる
○どんぐり
■透き通る声が聞こえてきそうだ。(どんぐり)

二ン月の紐引つぱれば灯りけり  篠
○米男○池田瑠那○田中槐○恵
■他の月でも成り立つのだろうが、二ン月の「ン」がこの句の肝になってる(米男)
■照明の紐を引く句は、今までにもありますが、寒過ぎず温か過ぎずの、「二ン月」の空気に共感。(池田瑠那)
■「二ン月」でなくても成り立つ句と思いつつ、なんだかこの緩さに惹かれました。(田中槐)
■ナゾが多い。二月から紐が出ているようなのが可笑しい。手を伸ばして何やら紐を引っ張れば、なんだか明るくなるのだ。この灯るものは春の訪れとも(恵)

日月の 引き合う余波に 岩崩る  柳 七無

梅の蘂だらりロナウド引退す  米男
○笠井亞子
■2002の大五郎ヘアをはじめ、点のとれるFWのファナティックさを私に強く印象づけてくれたロナウド。人生は短し、いわんやFWの命おや。さてこの句。「蕊だらり」に ちょっとしたロナウド性があると思うのは私だけでしょうか?(笠井亞子)

白鳥も二葉百合子も引きにけり  太田うさぎ

比良八荒引田天功の不思議  和人

恋猫の月に引かれて猛りあふ  中塚健太
○憲武○牛後
■この作者(誰だかわからないけど)しばらく見ないうちに人間探求力が上がったなと思いました。(憲武)
■恋猫が猛りあうのは、月の引力のせいなのか、と妙に納得してしまいました。(牛後)

籤引や外れは紙風船とメンコ  瀬戸正洋


1 件のコメント:

廣島屋 さんのコメント...

連投失礼します。

「引」は点が集中しましたね。いただいた2句の他では

引越のあとの畳と紙ふうせん
黄梅やたくさんの犬に引かれ行く

の句にも惹かれました。失礼な話ですが、被講で無点句となっているのを見て改めてその句のよさに気づくことがありますね。