2012年3月5日月曜日

●月曜日の一句〔中村和弘〕 相子智恵


相子智恵








泥の縄見え元朝の水の底  中村和弘

『俳句』3月号「驀進」(2012.2.25/角川学芸出版)より。

〈泥の縄〉は泥を被った縄のことだろう。どんな縄かは知らない。何かに結んであった縄が落ちたか、捨てられて水底に沈んだのかも、わからない。

この句は一瞬、泥まみれの縄という美しくないものを主体に詠んでいるかに見える。が、それが〈水の底〉であることで、一気に美しい一句となる。

なぜなら、水底の泥の中にある堆積物の〈泥の縄〉まで見通せる水とは、濁りなく澄んだ水だから。言外に「水の透明度」という美を詠んでいる。

〈元朝〉という新年の季語はめでたさを含み、清澄な水のほうを詠めば重ねてめでたくなりすぎる。水の美しさをそのまま詠むのではなく、〈泥〉で逆説的に美を感じさせた。その匙加減が絶妙だと思う。


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