2014年2月1日土曜日

●コモエスタ三鬼37 ガラじゃない写生

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第37回
ガラじゃない写生

西原天気

枯蓮のうごく時きてみなうごく  三鬼(1947年)

有名句。どこに出しても恥ずかしくないりっぱな句。

けれども、どこか三鬼らしくない。言い換えれば、三鬼が作らなくても、誰かがいつかどこかで作ったような句。だから、ダメというのではまったくないのですが。

戦後の三鬼の「変貌」について、三橋敏雄は次のように語っている。
これは三鬼が戦前にやらなかったこと、つまり三鬼自身は伝承的な俳句、古典をしっかり勉強していないわけですから、それをまずやろうという気があったでしょうね。さっそく写生でいこうということで「枯蓮のうごく時きてみなうごく」のような句を作るわけだが、もともとそういうガラじゃないから、徹底的な写生も続かない。やはり持ち前の風俗的な句にいい句がありますね。(…)
「俳句空間」1992年2月:『別冊「俳句四季」西東三鬼の世界』(1997年・東京四季出版)所収
句集『夜の桃』には掲句のとなりに、

露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す  同(1946年)

があります。これが「持ち前の風俗的な句」にあたるのかどうか。いずれにせよ三鬼でなければ作れなかったであろう句。好みもありますが、やはり、こちらを愛してしまいます。

ただ、この句の次には、

石榴の実露人の口に次ぎ次ぎ入る  同(1946年)

という句もあって、これなどを見ると、露人と石榴の句もまた、三鬼流の「写生」だったのかもしれません。


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