2014年4月18日金曜日

●金曜日の川柳〔小宮山雅登〕樋口由紀子



樋口由紀子






鏡ありて人間淋しい嗤ひする

小宮山雅登 (こみやま・まさと) 1917~1976

鏡にむかうとなぜか表情をやわらげてしまう。ときにはおかしくもないのに鏡にむかって笑っている。どうしてなのか。こわい、きつい、かたい、そんな自分の顔をみたくないためだろう。

しかし、それは「淋しい嗤ひ」。まさしくそうである。「嗤ひ」の漢字表記が効いている。人の繊細な、感じやすいさまが何とも言いあらわせられないほどの抒情性を含ませて表現している。

小宮山雅登に〈胡瓜もみ妻に与える夢あらず〉という句もある。温かくてやさしい。滋味に溢れている。こんな風に妻を見ている夫っていいなあと思う。いや、その前にそのように胡瓜もみをしている妻であるかどうかの方が問題なのだが。〈夜の雨や貌が剥げ落ちそうである〉〈民衆どっとわらひ一人に米がない〉〈矢が的を貫くむなしきを見たり〉『川柳新書』(昭和32年刊)所収。

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