2014年12月26日金曜日

●金曜日の川柳〔柳本々々〕樋口由紀子



樋口由紀子






ねえ、夢で、醤油借りたの俺ですか?

柳本々々 (やぎもと・もともと) 1982~

中学生の時に大晦日に部屋の掃除をしていたら、借りていた本が出てきた。明日は来年、借りたものは今年中に返さなくてはならない。我が家は三世帯同居だったので祖父母にそう教えられていた。自転車に乗って、遠くの友人の家にまで返しに行った。友人は何も大晦日に来なくても、新学期でもよかったのに、と怪訝そうな顔をしたが、帰り道はすでに暗くなりかかっていたが、気分もすっきりしてペダルを踏んだ。

夢であっても借りたものは気になる。自分ではないかもしれないけれど、ひょっとして、俺? もし、借りていたのなら、また夢で返しますと言っているようだ。「醤油」にノスタルジーがあって、いい。ちょっと以前までは醤油などの調味料の貸し借りは隣近所でふつうに行われていた。日常生活に借りたのを思い出したってなかなか詩にならないが、「夢で」で詩的発見になった。のびやかな韻律に乗って、「俺ですか?」と日常を揺さぶる。

〈ひやむぎのきびしいぶぶんはなしあう〉〈おだやかなかつらをかぶり鳥を抱く〉〈足らぬからつぎたしていく部屋の西〉 「SO」(第六号 2014年刊)収録。

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