水のあらまし
小津夜景
さいきん、
水のあらましというのが
人の時間を操ることだと気づきました。
よく眺めると水は
①透明性。
②変化性。
③窒息性。
を備えていて、すごくあぶない。
油断すると
見えない妖怪から
誘い水をかけられ
どんどん流されて
あたふたと溺れて
……。 ……。
……。 ……。
そんなことを想像しながら
わたしは好きでたまらない
水辺をぶらぶらする。
見えないものが
柔らかいものが
息ふたぐものが
時間とこの私とを
完全に一つにする
そのなつかしさに
浸り切ろうとして。
はつなつの芯のゆるみし楕円かな
竹夫人みづのふるまひ抑へ難
うすものにみづうみは棲み給ひしか
くちびるの水位に開くにさるびあよ
かはほりを掴みて空の波紋かな
ひとつぶの雨のしづくを手花火と
ゆく舟のあそびに不死の氾濫が
船酔ひのやうに金魚を抱いてゐる
紫陽花のゆふまぐれあふ素顔かな
汲みつくし夜の泉を狆と思ふ
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