2015年6月22日月曜日
●月曜日の一句〔北大路翼〕相子智恵
相子智恵
菖蒲湯の排水溝のサロンパス 北大路翼
句集『天使の涎』(2015.4 邑書林)より
端午の節句の銭湯である。菖蒲湯や柚子湯など、大きな風呂にこうしたものを浮かべる年中行事には、日常の中の特別感がある。普段から銭湯を利用している常連客たちの、無言ながら「ほう、今日は菖蒲湯か」とでもいうような、小さな喜びの視線が見えてくるようである。
そんな菖蒲湯の、排水溝のところに何かが浮いている。よく見ればそれは市販の湿布薬。剥がし忘れて湯船に入った客のものだろう。菖蒲湯で少し浮き立った心に、この興ざめな景が、なんとも情けなくて可笑しい。この絶妙に瑣末な風景で、銭湯の、そして銭湯に通う人たちのリアルが表れている。
二千句を収める本句集は、こうしたチープで情けなくて、だからこそ愛おしい句に満ち溢れている。作者の生活が赤裸々に描かれた、一読どぎつい露悪的な句世界に、けれどもちっとも食傷しないのは、作者が瑣末なこの世界を、何も選別することなくまるごと愛し、肯定していて、狭苦しいところがないからである。
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