2015年6月3日水曜日
●水曜日の一句〔岩崎喜美子〕関悦史
関悦史
鳥はひかり人は影曳き日脚伸ぶ 岩崎喜美子
「日脚伸ぶ」の句は、身辺、人事、心境といった、こまごましたことを詠んだ句が多い印象があるのだが、これはそのいずれでもない。
天を飛ぶ鳥の輝き、地に伸びる人の影を対句表現で並べて明瞭なコントラストを出し、そこから丈高く大きな空間を打ち出している。鳥と人の速度の違いからは、動と静の時間的な幅も感じられる。
急逝した作者の遺句集からだが、句集全体としては、必ずしも高齢に至って自在さを得たといった感じではない。
《神童も小町も老いて菜を間引く》《紙風船富山の風の音したり》《台風接近避難させたる陶狸》など、理屈っぽいというか、全て理が通ってしまった了解可能性のなかに取り込まれているのだが、にもかかわらず、そこに灰汁の抜けた親しみ深さが慎ましく遍満しているといった趣きがあり、その小作りさが持ち味となっている。
その中でいかにも小作りになりそうな「日脚伸ぶ」が、却って集中最も大きな句柄の句になったところが面白い。
ここでは天も地も、光も影も、「日脚伸ぶ」の生活実感に集約されることでバネが利き、空疎になることを免れているのである。
句集『一粒の麦』(2015.5 角川学芸出版)所収。
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