樋口由紀子
誘われて鳥獣戯画にまぎれ込む
櫟田礼文 (いちだ・れぶん) 1948~
こう暑いとどこか別の場所に逃げ出したくなる。でも、鳥獣戯画とは、たいそうなところに行ってしまったものである。夢の中の出来事だろうか。
「誘われて」だから、誰かに誘われてで、間違ってとか、偶然とかではない。最初は自分の意志ではなかったが、たぶん前々から興味はあったのだろう。そうでなければいくら誘われてもついて行くところではない。鳥獣戯画に誘うって、どんな人なのかと思う。
「まぎれ込む」だから、正面からではなく、混乱などに乗じて入ったのであって、ここでは自分が異質であることはもちろん重々承知している。気づかれなかったか。さて、そこはどんなところか。ひょっとしてこっち側には帰って来れないかもしれない。「苫小牧市民文芸」(2015年刊)収録。
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